もうすぐ蝉たちが鳴き始めるだろうと思われる日。
なんと言っても、この季節はジメジメして湿気が多いし、中々晴れる日が無い。
でもそんな時期に―毎年準備が始められる。
丁度期末テストが終わった後で。
「今日のLHR(ロングホームルーム)は、7月にある体育祭の担当分けをしたいと思いまーす!」
LHR・・・略してロングの時間に教壇に上がったのは―このクラスの学園祭実行委員の遠見だ。
遠見は、こう言う事に関して―本当にすごく盛り上げる癖がある。
「ダンス、衣装、バックシンボルの3つの内のどれかに入って下さい!競技は後程決めたと思います」
俺達の学校は1クラスの生徒数が少ないから、1〜3年の各クラスが集まって1つのチームになる。
全てはチームカラー―赤、黄色、オレンジ、ピンク、緑、青、黒、紫―の中から2つを選んで決める。
今年の俺達のチームカラーは、赤と黒になった。
ちなみに。
チームリーダーは剣司だ。
「分かれたら各担当でリーダーを決めて下さい」
去年は衣装に呼ばれたから衣装に行ったんだけど・・・今年はどうしようかな。
そう思っていると、不意に遠見に呼ばれた。
「一騎くん・・・あのね、ダンスに入ってくれないかな」
「え」と俺が驚くと、遠見は少し照れたように言う。
「私は今年衣装に入るんだけど・・・その衣装を一騎くんに着て欲しいから」
「・・・いいよ。俺も多分今年はダンスに入ろうと思ってたから」
本当は何も考えてなかったんだけど、そう答えた。
遠見は嬉しそうに黒板に自分の名前を書きに行った。
―そう言えば、総士はどこに入るんだろう。
「・・・なんだ。お前もダンスか」
名前を書きに言ったら、総士にそう言われた。
お前もって・・・総士ってダンスを踊るようなキャラだったっけ。
「総士・・・それは俺が言いたいよ」
少し苦笑をしながら言い返すと、何処か拗ねたような表情をして総士は自分の席に戻った。
「真壁くーん!今年はダンスなの?でも衣装の助っ人お願いねー!!」
衣装に入っていた蔵前が俺に声を掛けて来る。
・・・絶対そう言われると思った。
「出来たらで良いか?」
そう答えを返すと、蔵前は「それでいいよー」と返してくれる。
なんやかんやしている内に黒板に名前を書き終えた俺は、総士の席に行った。
「総士・・・お前もダンスなのか?だったら頑張ろうな」
―年が進むに連れ、ダンスのレベルは高くなっていく。
そんな意味で総士に微笑みかけると、逆に総士は驚いた表情になった。
「・・・ああ、頑張ろうな」
かあっと総士の顔が赤くなっていく。
・・・俺、何か恥ずかしい発言しましたか?・・・それなら俺の方が顔が赤くなるか。
「総士・・・どうしたんだ?」
思わずそう訊いてしまった。
周囲に居た何人かが興味深げな視線を、俺たちに向けている。
「・・・一騎って、本当に・・・―いや。何でもない」
「ほら、もう席に着け」と言って、俺は追い返された。
なんだよ・・・その先気になるじゃんか。
「とりあえず、皆、今年で最後の学園祭の体育祭、頑張って行こうね!!」
遠見がそう言うと、意気込んだ声がクラス中を包んだ。
俺も内心総士が言いかけた言葉を気にしながら―頑張ろうと再度思った。
TONE COLOR−夏の祭典−
期末テストも終わり、ついに体育祭の準備期間がやって来た。
期間中は授業が3限で終わり、それ以降からが準備時間になる。
前日とその2日前ぐらいは1日ずっと準備になって、ある意味凄い。
「ちゃんとリズム刻んでー1、2、3、4、5、6、7、8!」
ダンスリーダーが言う通りのリズムを刻みながら踊れば良いんだけど・・・これが中々難しい。
見た感じはそうじゃないけど、結構ハードだったんだな・・・。
「・・・っと。じゃあ、もうお昼休憩!40分後に体育館集合な!」
前半戦終了か。
そう思いながら汗だくになった身体をタオルで拭いていると、総士が声を掛けてきた。
「大分キツイな・・・ダンス、覚えられそうか、一騎」
髪を結う位置を高くしている総士に少し驚きながら、頭を縦に降る。
「なんとか、な。・・・これぐらいの動作なら覚えられるよ」
「これ以上難しいと無理だけど」と苦笑いをすると、総士に驚いた表情をされた。
「・・・なんだよ、総士」
ちょっと拗ねた顔をしながら総士に言うと、逆に慌てられる。
・・・最近・・・総士の様子が変だ。なんか、いつもと違う。
「―兎に角。一騎、お昼にしよう。でないと練習が始まってしまう」
良い感じに無視されたけど、これは別の話だ。
本当に早く弁当を食べないと・・・後々辛くなるし。
「・・・総士!」
購買にパンを買いに行こうとした総士を呼び止めて、鞄から弁当を2つ取り出した。
「お前、どうせ購買だろ?だったら今だけでも、ちゃんとご飯・・・食べてもらおうと思ってさ」
倒れられたら困るし。
・・・そんな意味を込めて、言った。かなり照れくさかったけど。
「・・・あ、ありがとう・・・一騎」
また赤面された。
なんでだ・・・俺、なんか恥ずかしい事・・・言ったのか?
「味の保障は出来ないけど、まあ・・・食べてよ」
「ああ。いただきます」
妙に嬉しそうな表情をされて、もうどうでも良くなった。
総士は総士だし・・・昔から変わらない、俺の好きな―・・・好き?
「・・・一騎?」
名前を呼ばれ、ハッとする。
俺は慌てて弁当の蓋を開けて、食べ始めた。
「あー・・・もう時間だ・・・」
ぐったりとした様子で居るのは―何故か衣装担当の生徒たちだ。
「あ、皆城くんじゃない。そっちはどう?」
僕に気づいた蔵前がニッコリと微笑みながら声を掛けて来る。
蔵前がすわっている席には―大量のタータンチェックの赤い布が大量に積まれていた。
他の衣装担当の生徒の机にも、色々な布が大量に積まれている。
「・・・中々大変みたいだな、そっちも」
驚き半分で苦笑いしながら答えた。
「大変って所じゃないわよ?まあ・・・楽しいんだけどね」
クスリと笑った蔵前を不思議に思って見つめていると、不意に遠見に声を掛けられる。
驚いて振り返ると―衣装の原画のような物を見せられた。
「結構凝ってるんだよ、衣装。今年のチームカラー、本当に嬉しい組み合わせだから!」
うふふと笑う遠見が遠見らしい・・・。
呆れ返っていると、今度は咲良に「気にするんじゃないよ」と声を掛けられた。
「真矢ねー・・・今年最後だからって、一騎に着て貰おうと張り切ってるんだよー」
やれやれと言う咲良に遠見が赤面する。
「ちょっとぉ、違うって!ああ、もう翔子も笑わないのっ!」
「だって真矢らしいんだもん・・・。それに、私も一騎くんに完成した衣装、着て貰いたいし」
この期間だけ頑張って登校している翔子が夢見る少女のような笑顔を浮かべた。
「・・・あ、時間だ」
時計を見ると―既に集合時間の10分前を指している。
慌てて自分の席に荷物を取りに行き、一騎が待つ入口前に行った。
僕は学級委員だから、各チームの進み具合を学園祭実行委員に伝えると言う下っ端をしている。
実際。学級委員は生徒会に属されるのだが―3年生は、割と自由に動けているんだ。
・・・実は言うと、僕も一騎が衣装を着た姿を見たいんだよな。
「総士ー、早くしないと練習始まるよー!」
体育館入口で待っていた一騎に叫ばれ、その場に急いだ。
「どうしたんだ?総士が遅れそうになるなんて。・・・珍しいな」
可笑しそうに笑われたから、思わずムスっとした表情になる。
その表情をした瞬間一騎が慌てたから、今度は僕が笑ってしまって怒らしてしまった。
「・・・あれ?ミーティングかな」
体育館に入れば、ダンス担当の生徒・・・3年生ばっかりが一箇所に集まっている。
「―あ。やっと来たな、お前たち」
僕たちに気づいた甲洋が「早くこっちに来い」と招いた。
「今ダンスの時の陣形を考えているんだ」
陣形って・・・なんか違うような・・・。
そんな事を思いながら足元にある白い紙を見てみると、複数の丸が描かれていた。
「ここに・・・と・・・を置いて、・・・と・・・を・・・に・・・で」
ダンスリーダーの少女―木村若命(キムラ ワカナ)が、名前を書き込み始める。
彼女は"女版真壁一騎"と言われる程、運動能力が長けている。
だから咲良とつりあう女子と言われ、ある意味恐れられていた。
「んで、一騎と総士を女子とペアを組ませて前に出そうって話なんだ。別に良いだろ?」
「今なら希望の女子でペアを組ませてあげられるぞ」と若命は悪戯っぽく微笑む。
流石、咲良とつりあう女。言う事が他の女子と違って、男子を尻に引くような言葉を言う。
「・・・なに感心してるんだよ、総士」
訝しげな視線を一騎に送られ、慌てて僕は意義を唱えたが・・・あっさりと却下された。
「駄目だぜ、そんな事を言っても。もう決まってるんだ」
―ニヤリと笑われる。
周りでは「あの総士が女子に負けるなんて・・・」とか「嘘でしょ・・・」とかなんか聴こえた。
思わずカッとなって
「じゃあ僕が一騎と組めば前に出る事は無いんだな?」
一瞬、周りが静まり返った。
「・・・そう言うと思ってたぜ、総士」
更にニヤリと笑った若命が予想していたような口調で、僕の肩にポンと手を置く。
・・・周りの皆も、何処かニヤニヤしていて、一騎だけが"信じられない"と言う表情をしていた。
「じゃあ、総士と一騎はペア組んで前で踊るに大決定だな。あとは・・・」
白い紙に僕と一騎の名前が、陣形の一番前にある4つの丸の内の2つに書かれる。
一騎には小声で「バカ」と言われてしまった。
「―そうそう。前に出て踊る奴には特別ダンスがあるから、覚悟しとけよ」
・・・なんて言われる始末だ。
体育祭まで時間が無いのに・・・と項垂れていると、若命とペアになった甲洋も溜息を吐いた。
「俺なんてバックシンボルと梯子してるのに、もう・・・流石だよ、若命って」
楽しそうな笑顔でその他のダンスの生徒に陣形を教えている若命は、輝いて見える。
「まあ・・・楽しいから、別に気にしてないけどな」
そう言って、笑い合った。
最後だからと言って、楽しめないはずが無い。
「じゃあ、俺達は特別ダンスとやらを・・・教わりに行きますか!」
すっかり機嫌を直した一騎がうーんと背伸びをしたので、僕達もその場に立った。
さあ練習に行こうと歩き始めた時―体育館に練習を見に来た遠見に声を掛けられた。
・・・今日はよく声を掛けられるな。
「一騎くんってさ・・・衣装に助っ人に来れるような状態じゃないよね?」
ボソボソと小声で言われたから、思わず僕も小声で返す。
「ダンスの陣形で一列目で踊るから・・・助っ人に行く余裕は無いかもな」
「―じゃあ皆城くん。一騎くんに着せるなら、
ピッタリしてヒラヒラしてるのか、ガボッとしてフワフワなのか・・・どっちが良い?」
それって・・・僕の好みで決めて良いものなのか?
遠見が頬を染めるのを見て、僕もつられて赤面してしまった。
「えっと・・・そ、それは・・・ピッタリしてヒラヒラしてるのかなぁ・・・」
一騎が着れば絶対可愛いんだろうな・・・と思わず想像して、ドキリとする。
目の前の遠見も想像してしまったみたいで、こくこくと何度も頷いた。
「やっぱりそうだよねぇ、ヒラヒラだよねぇ。そうなると、皆城くんはガボッとしてるのだから」
・・・成り行き的にそうなる衣装って・・・もしや・・・!?
「流石ね!総士ってば大正解!女子の衣装なのよ、ピッタリでヒラヒラって言うのは」
ひょっこりと現れた少女―真木由莉(マキ ユリ)は、僕たちの歳より1つ上の先輩になる。
同学年に真木真司(マキ シンジ)と言う・・・えらく可愛らしい男子の姉だったな、確か。
「由莉先輩に出してもらった衣装案から決めた衣装だから、結構可愛いんだよね」
「美術部のOBとして、張り切らせて貰ったわ」
絵が上手いと評判の先輩だから、きっと物凄いんだろうな・・・。
だから衣装のグループが、あんなにしんどそうだったのか。なるほど。
「最前列で踊るキミたちの為に、素敵な衣装を描いてあげたわよ・・・」
ふふふ、と笑う先輩の表情が何故か怖い。
そうこうしている内に若命の下に先に行っていた一騎たちに呼ばれ、僕はその場を後にした。
「衣装って言うのも、楽じゃ無いねぇ・・・」
慣れた手つきでミシンを掛ける咲良が、同じく慣れた手つきでミシンを掛ける翔子と話していた。
今はタータンチェックのヒラヒラを、黒い生地の裏に縫い付けて、
チェックの生地がちらりと見えるような工夫をしている所だ。
「咲良、そっちが終わったら私に渡して、ズボンの方やってね」
「りょーかーい」
「帽子、人数分出来ましたぁ!」
そんな会話をしている咲良たちに、教室の入口から後輩の里奈が大袋を手に持ち、現れる。
大袋に入っているのは―シャスタスキャップと言う種類の黒色の帽子のツバに少しチェック柄を縫い付けてある帽子。
「ありがとう、里奈ちゃん!次は、1年と2年の人数分のゼッケンに文字を入れて欲しいの!」
走って帰って来た真矢がそう言うと、里奈は嬉しそうに「はい!」と返事をして、ゼッケンを持って行く。
「あっつー・・・。やっぱり一騎くん無理みたい」
すこしウンザリとしながら言った真矢に「しょうがないよ」と咲良が慰める言葉を言った。
「助っ人に来られない代わりに、一騎にこの衣装の事、バレずに済むでしょ?」
そう聴いて、真矢の瞳が輝く。
クスクスと果林と翔子が笑った。
「一騎くんがこの衣装着て踊ってくれるんだよね・・・!」
「引き締まった身体にピッタリと合い、細い身体のラインがくっきりと分かるこの衣装を着て踊るんだぁ!」
行き成り現れた由莉にその場に居た全員が驚く。
―由莉は何処かにトリップしたように、次々に言葉を紡いで行った。
「一騎なんか細いし余計に細く見えるかも知れないけど・・・下の服がノースリーブでヘソ少し上だから・・・」
果林がミシンで縫っていた黒いノースリーブのハイネックの完成品を取る。
そして咲良と翔子が縫っていた服も取り、ハイネックの上に重ねた。
「少しマニアックかも知れない・・・でもマニアックで良いのよ!パンピーには分からないわ、この萌え度・・・!!」
専門用語を所々に散りばめた言葉に、その場に居る生徒は呆然と由莉を見ている。
「動く度にチラリと見えるオヘソ・・・ってか腹筋と言うか腹!このチラリズムは他のチームには負けないわよ!」
「―由莉姉!こんな所で何してるんだよ!!」
「皆呆れ返ってるじゃんか!」とその場を通り過ぎようとして、出来なかった由莉の弟の真司が止めに入った。
「どう?真司も着てみる?あんた可愛いから似合うよ」
その言葉を聴いて、真司は思い切り溜息を吐く。
真矢たちは終始苦笑いをしながら、ずるずると引きづられて行く由莉を見送った。
「・・・ちょっとした邪魔は入ったけど、そろそろ始めますか!」
咲良が言うと、皆が気を引き締めた表情で衣装作りに取り組み始める。
その時でも、真矢の瞳は輝き続けていた。
今日の練習は、本番が近づいていると言う事から―18時まで延長された。
勿論、ダンス以外も同じだ。
「衛、バックシンボルどうだ?」
休憩の合間に体育館に向かう通路で作業をしていた、バックシンボルリーダーでもある衛に進み具合を聴きに行く。
バックシンボルは結構好調らしく、笑顔で返されたけど。
「あともう少しなんだ!学級旗もね」
バックシンボルは―2mぐらいのベニヤ板を9枚用意して、そのチームのシンボルを描く。まさにその通り。
骨組みが出来ている状態と言う事は・・・後はベニヤ板を釘で打つだけなのか。
「衛、それぐらいだけど・・・手伝えるから。明日絶対呼んでくれよ!」
甲洋がそう言うと、衛が首を横に振る。
「大丈夫だよ、甲洋。これよりもダンスの方を優先して欲しいんだ」
「うん・・・ごめんな、衛」
話している内に休憩時間の半分が過ぎ、僕たちは急いで教室に戻った。
「お前らー。ダンスの前に衣装合わせだってさ」
若命が特に一騎にニヤリとしながら、僕たちに言う。
ピッタリでヒラヒラ・・・それはお前も着るんだよな、と言う視線を若命に送っていると
「実は、一列目の衣装って・・・皆違うらしいぞ」
小声でボソボソと言われる。
驚いていると、遠見にその衣装を渡された。
「着てみて合わなかったら調整するから。なんだったら、それ着て一回ダンスを通してみてよ」
そっちの方が、本番に向けても良いかも知れない。
実際、3年の衣装は・・・1年と2年は本番まで知らされていないのが醍醐味である。
そんな感じで、この場には3年しか居ないのだが。
「・・・これ、若命の衣装じゃないのか?」
トイレで着替えを済ませた一騎が帰ってきてから言った―その一言。
確かに・・・黒い生地の所々にタータンチェックの赤いフリルがちょっと見えていて、
下はフリルの付いた八部丈のチェックのパンツ。ちなみに、フリルは黒だ。
「一騎くんの衣装だよ?」
遠見がニッコリと笑顔で答えを返す。
一騎も無理やり納得させられたような表情で頷いた。
一方、僕の衣装はインナーにピッタリとしたハーフネックの黒のノースリーブ。丈がヘソ少し上だ。
その上からインナーより少し長めの丈のタータンチェックの赤のベスト。
パンツは・・・ガボっとした感じで大き目の黒い八部丈だ。
裾から少しチェックの柄が見えている。
一騎と対になるように作られた衣装らしい。
同じように色は違うが―所々にベルトが付けられていた。
「俺も総士の衣装が良かった・・・」
少し拗ねた表所をしながら一騎は呟く。
動きやすさで考えれば、僕的には一騎の衣装の方が良いと思うんだけどな。
「でも、一騎・・・似合ってるよ」
あまりにも似合っているから、ついそう言ってしまう。
「・・・そう、かな」
頬を朱色に染めて呟く一騎が、なんだか凄く可愛く見える。
いつの間にか甘くなって来た雰囲気を断ち切るように、遠見が声を発した。
「じゃあ、微調整もしたいから一回一人ずつ音楽に合わせて、踊ってくれないかな?」
「まずは一騎くんから、お願いします」と有無を言わせ無い声音で真矢は言う。
イスの上に置かれたラジカセから、ダンス用に選ばれた洋楽が流れ始めた。
軽やかに流れるリズムに―所々激しいリズムのダンスが混じっている。
そして・・・リズムに合わせて見える、白い一騎の腹筋と言うか腹。
「・・・っ」
な、なんだ・・・この気持ちは・・・!?
妙に心臓がバクバク言っているのを周りの皆にばれないように、平静を装っていたけど。
激しいと言うか・・・どっかに色気を感じさせるのが・・・ちよっと。
「えーっと、次は・・・っ」
思い出すようにダンスを踊る一騎だが、間違いの無い、完璧に教えられた通りのダンスを踊っている。
流石一騎だ―と思いながら、僕はダンスを踊る一騎に魅入っていた。
「・・・こ・・・これで良いのか・・・っ」
曲が終わり激しい呼吸をしている一騎に、僕は慌ててタオルとスポーツドリンクが入ったペットボトルを手渡す。
「ありがとう、総士」
手渡したときにニコリと微笑まれて、思わず後退ってしまった。
「・・・どうしたんだ?総士」
そう言われて、思わず返答に困る。
―僕は・・・一騎の事、どう思っているんだろう。
冷静になって行く思考とは反対に、心臓の鼓動は上がっていく一方だ。
「僕、は・・・」
小首を傾げる一騎の仕草は―時々僕の中では犯罪的な"可愛さ"に変わるときがある。
今、その衣装を着てそんな仕草をされれば・・・その・・・えっと。
「お前最近変だよ?俺を見て顔を赤くしたり・・・昔から有ったけどさ。なんか・・・もう満更じゃないぞ?」
―そうか、そう言う事だったんだ・・・。
僕はそう言われて、この時初めて僕の一騎に対する気持ちが・・・それ以上のものなんだと、確信した。
「一騎は・・・鈍感過ぎるよ」
本当に鈍感過ぎる。いつも傍に居る奴が、こんな気持ちになっている事に・・・気づかないなんて。
でも、鈍感な一騎だからこそ―僕は"好き"になってしまったんだと思う。
「―遠見、順番的に言うと・・・次に踊るのは僕だよな?」
少しポカンとなっていた遠見に言うと、慌てて頷かれてラジカセの再生ボタンを押される。
・・・今は、まだ秘めておこう。一騎に対する、僕の気持ち。
いつかきっと・・・きみ自身が気づいてくれる、その日まで。
体育祭当日。
前半の競技が終わり―いよいよダンス競技の本番が迫った、お昼の休憩時間。
俺と総士は緊張を隠しきれず、そわそわとしながら昼飯を食べていた。
「ね・・・どうしよう、失敗したら」
思わず総士に縋りつく視線を送ってしまい、慌てて目を逸らす。
今日は体育祭当日と言う事で、結構食べやすい料理を作ってきたハズなのに―全然喉を通らない。
「一騎・・・今更だよ、そんな緊張なんて」
流石総士だよなって・・・改めて感心した。
何が有っても冷静に考えて行動出来る総士。
俺は―そんな総士が羨ましいと思ったし、慕っても居た。
「自分を信じてあげろよ、一騎。・・・僕も、一騎の事を・・・信じてるから」
・・・お前の方が鈍感じゃないのか?
先日総士が言っていた事を思い出して、思わずそう思ってしまった。
「・・・総士、俺」
お前の事が、小さい頃からずっと・・・好きなんだよ。
それを伝えようとした瞬間―キスを、された。
「・・・へ?」
「―ダンスが出来る、おまじない」
おまじない・・・それはキスで掛けられる事なのか!?
「お、お前って・・・本当に不器用なんだな・・・!」
なんかもう混乱している思考の中では、緊張と言う言葉が吹っ飛んでいた。
総士って・・・他人を安心させる事が凄く上手い。
「と言うか・・・恥ずかしくないのか・・・」
思わず呟いてしまった言葉に、総士は笑顔で答えた。
「一騎が良いって言うのなら、何時でも何処でも・・・ずっとしてあげられるよ」
「本当は俺より余程天然じゃないと言えない言葉だぞ・・・お前・・・」
よくもこう恥ずかしい言葉を連呼出来るんだな。
心の中で蔑みつつ、何処かで嬉しいと思う自分が居た。
「だけど・・・緊張が解けたよ。ありがとう、総士」
だから、そう言ったんだ。
今も昔も―変わらずに俺の事を理解してくれている、きみに。
「大好きだよ」
ずっと変わらない、俺の気持ちを。
体育祭後日。
校内新聞に大きく載せられたのは―一騎と総士。
見出しは・・・
『決め手は腹筋!?脅威の男子二人組み、チームを導き優勝を勝ち取る!』
その日から、娯楽が極端に少ない竜宮島の女子の間でちょっとした娯楽が始まってしまった事を、一騎は知らない。
Fin......
+後書+−−−−−+
もしフェストゥムが存在していなかったらシリーズのその壱。
・・・腹筋祭なのに腹筋の事があんまり書かれていないのは何故だろう(ぇ
素直な総士が書きたかっただけかもしれんし、もしくは甘いのが書きたかっただけかもしれんな・・・(ぇ
内心これもギリギリになるかな、と焦りながら書いてしまいました;
特に・・・キスの辺りから(オィ
本当にスイマセン;
ファフナーキャラの性格を真面目にしたかったんで、オリジナルキャラを入れて壊してみました(何
男っぽい少女の木村若命。若命って書いてワカナって読むのは当て字じゃないです(ぉ
BL好きの美術部のOBの真木由莉。由莉だからといって百合ではない(待て
そんな姉に悲しんでいる弟の真木真司。実は可愛い子なんですよ(ぇ
これらのキャラはファフナーの世界には存在してないです(当たり前だ
・・・説明しないと分からない部分。
一騎は総士が一騎を好きになる前から、自分は総士の事が好きだと思っていたんです。
それを伝えられないまま今になってしまって。
一方で総士は、一騎を見たときや仕草で感じるモヤモヤ・・・あるいはムラムラ(ぇ)の意味をまだ理解できていなかった。
「友達以上恋人未満」では無く「友達以上恋人以上」だと、今になってやっと気づいたんですよ。
・・・と言う訳は、総士の方が鈍感だったわけですね!(笑(ぇ
一騎は「自分は総士が好き」と言う事が分かっていたから、キスをされても恥ずかしい事を言われても無視できた(ぉ
学園物だと何でも出来るなー(ぇ
でも昼休憩の教室内のキスとかは流石に恥ずかしいだろう・・・(オマエが書いたんだろ
体育祭の内容は、全部私の学校の体育祭の内容だったりします(ぇ
毎年スゴイですよ・・・衣装の凝り方が。
今年は紫チームの衣装が本当に凄くてカッコ良かったです
和風って良いですね〜(ぇ