あの日、僕たちが話していた意味は・・・あったのだろうか。
ただ1つの質問にどれだけの意味があったのかなんて―あの時の僕には分からなかった。
「それだけの事で、お前は僕を呼び出したのか」
正直・・・そんな事まで思っていた。
その質問の重さは、ただ心の片隅にある闇だけが知っていた。
闇だけが知っている意味。
果たして―僕にはその闇を見る勇気は有るのだろうか。
第1章 心の片隅で
「・・・聴きたいことは、それだけか」
ただそれだけ、とでも言うようにお前は顔を伏せた。
やはり―お前は何を考えているか分からない、そう言いたげな表情で。
「お前・・・変わったよな」
再び発せられる言葉には少しながらも疎遠していた頃のように、棘が含まれている。
僕も同様、その頃に戻っていた。
「変わってないのは、お前の方だ・・・一騎」
なにも考えずに出て来る言葉は、相手を傷つけたり、悩ませるなんて、思わない。
だから僕は・・・ただ意思に任せていた。
「こんな戦いをしていたら・・・嫌でも変わってしまうさ」
蒼い空は、なにも言わずに僕たちを見つめている。
だが、物言いたそうに流れる雲は、一言、二言と言葉を紡ぐ。
「このままではお前も と変わらない」
「このままではお前は と同然だ」
かつて僕が一騎に言った、あの言葉。
その言葉がもう一度、言ってみたくなったのは・・・考えて欲しかったから。
「あなたは・・・そこにいますか」
そこにいるか、と訊ねるこの質問は、お前にとってどれだけ重く圧し掛かったんだろう。
ファフナーに乗り・・・幾度か耳にした、この質問。
聴こえる度に、僕は「答えるな」と言っていた。
でも・・・この時だけは、答えて欲しかった。
翌日。
朝日に照らされながら・・・彼は「楽園」と言われていた島を出て行った。
知らない世界を知るために。
自分の居場所を探すために。
彼が出て行った後の空は、悲しく僕に声をかけた。
「止められたんじゃないのか」、と。
その言葉は、僕をこの疵から解放するかのような―甘い誘惑だった。
この疵のお陰で、僕はファフナーに乗れなくなった。
そうだと言うのに、別に・・・なにも思わなかった。
この甘い誘惑は、彼が居ない間、何回も僕の心に響く。
ずっと言えなかった心の中の言葉を「吐き出せ」と言う誘惑は、僕を闇の中へ誘った。
再び空が、哀しげに囁いた。
「お前はそれで良かったのか」、と。
心の迷いは、戦いにはいらない。
自分自身が言った事が、頭の中に流れる。
今度こそ・・・闇の中へと堕ちそうになった。
その時、彼が戻ってきた。
誰もが「もう駄目だ」と思いかけていた時、白い機体が現れた。
何もかもを自分の中に取り込んで、“無”という白紙の状態に戻す、その機体。
「お前が見てきた世界を・・・見てきた」
客観的に行動して来た自分を、正すような・・・その言葉。
今までの自分は―間違っていたのかも知れない。
「総士・・・お前はもう・・・ひとりじゃない」
僕が―僕自身が「生まれ変わりたい」と思ったのは、何時頃からだろう。
道を間違えた僕を正してくれた君は・・・今は僕の元から離れてる。
距離を置く事が、こんなに辛い事だと知ったのは、君が島を出て行ったとき。
下手だけど、下手なりに呟いたこの言葉は、君を―何処まで変えたんだろう。
また僕は―ひとり置いて行かれるかも知れない。
だけど、君が居る限り・・・僕は耐えて見せるよ。
小さな手が、僕を裏切った時―
再び君に―問う時が来る。
悲しみと言う名の蒼い空と、苦痛と言う名の楽園と。
それをすべて抱いて眠る、誘惑という名の碧い海。
裏切りと言う名の現実は、何処まで君を追い詰めるのだろう―。
それを知るのは、何もかも見透かしている風、だけ。
再び襲い掛かった現実は、宇宙からの訪問者の手によって、造り換えられる。
それは疑問に満ちたこの楽園から、僕らを解放するための、長い長い道だった。
その道のりを駆ける巨人は、僕らのとった少しばかりの小さな自由。
戦いと言う名の、ちっぽけ自由だった。
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