物語の始まりは15年後。
一緒に生まれた彼女と彼が初めて逢った年。



「あ・・・出て来たの?」

「やぁ」と前世の彼とはまったく違う、オープンな態度でメディカルームへとやって来た彼に、
そこに居た全員度肝を抜かれる。

「・・・あら、総士くん。体の調子はどう?」

少し遅れて言った千鶴に、「今は竜生ですよ」と笑顔で答える彼が―生まれ変った総士なのだ。
肩下まで伸びた黒い髪を、以前の様に毛先の少し上で纏めている。

「まだ出たばっかりですから・・・少し動きづらいですけど」

髪の色だけが違い、あとはまったく以前のままの竜生に、真矢は少し恨めしそうな目で見ていた。

「いいなぁ、皆城くんは。前と同じでー」

「私なんか・・・前の様には行かないんだもん」とムスっと頬を膨らます。
竜生は、そんな真矢を見て、くすりと笑った。

「お前はいつでもあの頃のままだな、遠見」

「それ、どういう意味よぉ!」

頬を朱色に染めて怒る真矢は、当時と変わらない。
その事がなんだか嬉しくて―竜生はつい笑ってしまっていた。

「―竜生くん、分かってるわね?ここにはずっと居られるけど・・・」

千鶴の真剣な面持ちに、竜生も真剣にこくりと頷く。

「乙姫の様に・・・いつかはこの島と同化しなければ行けないんですよね?」

竜宮島の“コア”として生まれたものは、いつかは島とひとつにならなければならない。
それが、かつて総士だった頃に妹の乙姫と別れた理由だった。

「覚悟は・・・出来てますから」

永遠に廻る、悲しい螺旋。
この螺旋は・・・永遠に絶たれる事はないのだ。

「一騎・・・は今は満勇か。満勇はどこに居ますか?」

そう竜生が訊ねると、弓子が「コアだったら、居場所も分かるはずよ?」とくすりと笑う。
竜生もつられて笑った。

「今は学校よ。あなたも来週からもう一度学校ね」

「はい」と、それだけ言って、竜生はメディカルルームを出る。

いよいよ一騎と―逢えるんだ。
そう思い、高鳴る鼓動を抑えつつ、久しぶりに地上へ続く階段を上った。





第一章−出逢い−





授業なんて嫌いだ。いつも退屈でしょうがない。
でも―地下に行くのは別。
だって・・・―


「一騎・・・じゃなかった。みーゆー!」

満勇こと日野満勇は、学校帰りに聴きなれない声に呼ばれ、不思議に思う。
そこには―何度か母親に連れてかれた、アルヴィス内にある「ワルキューレの岩戸」の中に居た―

「え、あの・・・」

呼ばれて振り返った途端―思いっきり抱きしめられる。
ただ呆然となされるがままになっていたが、慌てて満勇はその体を引き離した。

「あの・・・私になにか用?」

頬を少し赤らめ、上目遣いに竜生の事を見ている満勇に、竜生は唖然とする。
髪は少し茶色掛かっているが―容姿はまんま一騎だ。
前世を知っている竜生にとって、それは考えられない反応であった。

「・・・ああ、ごめん。ちょっと見惚れてた」

―なんだよ、こいつ。ちょっとカッコいい顔してたから・・・ちょっと気になってたけど―
全然駄目じゃん。
そんな事を思っていたのが顔に出たらしく、竜生は困ったようにくすりと笑う。
満勇は「う・・・」と押し黙り、目を伏せた。

「・・・逢いたかった。ずっと・・・逢いたかったんだ・・・」

さっきとは違う、本当に嬉しそうに呟いた竜生に、満勇は不思議に思う。
心の中で、ずっと・・・何かが引っ掛かっている。
なんだろう、と考える間に再び竜生に抱きしめられていた。

「あの・・・私・・・あんたの事知らないから・・・言われても分かんないんだけど・・・」

恐る恐る言ってみると、竜生は「・・・そうだったな」と少し悲しげに微笑む。
そして、満勇を抱きしめるのを止めて、今度はニコリと微笑んだ。

「僕の名前は、皆城竜生。この島のコアだ。よろしくな、満勇」

満勇は“コアと言う存在”に驚く前に、彼が“皆城”と言う事に驚く。

「皆城って・・・あの皆城なの?竜宮島の、たった一人のジークフリードの―搭乗者の?」

驚いている満勇を意外そうに見ながら、竜生は頷いた。

「まぁ・・・な」

竜生はそう言って、黙ってしまう。
一方満勇は“ジークフリードの搭乗者”について知っている事を、思い出していた。

ジークフリードシステム。
15年前―丁度満勇が生まれる前、この島に宇宙から来たと言う“フェストゥム”と言う存在と戦っていた頃の話。
この島にいた10人の子供たちが“ファフナー”と呼ばれる、ロボットに乗って戦っていた。
その内の1人に入るのが、今目の前に居る同じ苗字の“皆城総士”と言う当時15歳の少年だ。
彼は、“ファフナー”の搭乗者の脳と自分の脳を繋げ、搭乗者に戦闘の指揮を行う。
その代りに、その者の感情や痛みを共有する。最大12人分の。
確か―最後の戦いで“消えた”とか言われてるけど―この人・・・同一人物?

「・・・そうは見えない・・・」

ぼそりと呟いた言葉が、竜生に聴こえたのか。
竜生は首を傾げて満勇を見て来た。

「あ、いや・・・なんでもない」

慌てて言った満勇を不思議に思いながら、1つおかしい事に気付く。
それは、満勇の驚く所が“コア”ではなく―“ジークフリード”に驚いた所だった。

「満勇、この島に・・・ジークフリード候補生は居ないのか?」

すると「この島のコアなんだから、それぐらいは分かるじゃないの?」と言って、満勇は意外そうな表情をする。

「私だよ?ジークフリードの候補生。戦争なんて、した事ないけど」

「当たり前だけどね」と言って笑う満勇に、竜生は嬉しいやら悲しいやら・・・複雑な感情が芽生えた。

「練習とかで、あんまり上手く出来ないから・・・。あんたに色々教えて貰いたいなって、ずっと思ってた」

「だから・・・来ていたのか、あそこに」

竜生の質問に、満勇は頷く。
そして竜生は―悲しげに微笑んだ。

「じゃあ・・・教えられる事は教える。それが満勇のためになるんなら、ね」

満勇が頷く前に、竜生は満勇の手を引いて、地下―アルヴィスの入口に当たる階段に向かって、歩いていく。
そして、その階段に着き、満勇をアルヴィスに行く様に、促す。

「先に行ってて、満勇。僕はちょっと寄る所があるから。―あ、僕の事は竜生って呼んでくれ」

「じゃあな」と言って走って行った竜生を、呆然と満勇は見ていた。

「・・・まぁ良いか」

教えてもらえるんなら、それで良いか、と満勇は思いつつ、階段を下りて行った。





走って行った先。
それは、一騎の家だった。

「・・・こんにちは、真壁指令」

戸はそのまま一騎の父:史彦の仕事場に繋がっており、竜生は仕事をしていた史彦に話しかけた。

「―ああ、総士くんか。今日・・・出たのか?」

「はい」と答え、竜生は戸棚に合った二つの写真立ての存在に気付く。
その写真立てには、一騎の母親の写真が入った物と―一騎の写真が入った物だった。

「・・・あの、一騎の部屋に上がらせて貰って良いですか?」

写真を一瞥してから史彦に言うと、史彦は分かってるよとでも言う様に笑い、了承する。
竜生は奥にある広間に上がり、階段を登って一騎の部屋に行った。



戸を開けてみると、そこにはずっとあの時のままの一騎の部屋があった。
何も変わらない―そのままの部屋。

「一騎・・・」

人知れず呟いた彼の名前は、その部屋に空しく響いていく。
ふと、勉強机に置いてあった写真立てに目線が行った。
そこには―自分が“皆城総士”として生きていた頃の、写真が入っていた。

「一騎・・・お前・・・」

その写真立てを見詰めていると、自然と涙が溢れて来る。
もう“泣かない”と決意していたのに・・・。

「・・・あの頃のお前に会いたい・・・」

でもそれは、赦されない願い。
生まれ変って戻って来た彼に―失礼だ。

「・・・・けど、僕は・・・現在のお前と会えた」

だから、僕は・・・現在を生きようと思う。
またお前と会えたから・・・再び授かった命だから・・・。

「・・・ただいま・・・一騎」

お前が「おかえり」って、笑ってくれるまで・・・僕は、お前を待ってるから―
しばらく・・・一緒に居よう?一騎・・・―





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