総士が居なくなってから、1年が過ぎようとしている。

この1年・・・すごい・・・長かったような気がするな。
だって、お前が傍に居ないなんて・・・今まで考えたこと、無かったから。
気付けば―お前を探してる。
そんな自分が・・・辛かった。

竜宮島では、1年遅れの卒業式が行われた。
この1年、皆忙しくて、手が回らない状態だったから、この年の春に行われたんだ。

卒業生達は、居なくなってしまった友人や式に出られない友人の・・・写真を持って卒業式を行った。
これが・・・昔からの竜宮島の“慣わし”らしい。
そんなの・・・俺達の年で終われば良いのに。

俺はお前の写真を・・・持って行くかどうか、正直迷っていた。
けど―持って行くのは止めた。

なんか・・・お前が帰ってくるような―そんな気がしたから。




−光風霽月−





卒業式の翌日。
いつもの様に起きた俺は、学習机にある3つの写真立てに視線を合わせる。
1つは、母さんの写真。1つは、幼い頃の俺と総士の写真。
もう1つは―1年前の総士の写真。
いつ撮ったか忘れたけど―写真立てに入れて置いた。

「・・・おはよう」

そう言って、私服に着替え、居間へと下りて行った。

まだ視力は完全に回復したとは言えないけど、身の回りの事は出来るようになった。
実は言うと、メディカルルームから自宅へ戻って来たのは、卒業式の前日。
体内の同化現象があまりにも進んでいたから、結構時間が掛かった。

「・・・階段下りるだけも・・・辛いんですけど・・・」

・・・昨日、どうやって学校まで行ったんだろう。
そう疑問に思うぐらい、体力が落ちていた。

「・・・大丈夫か?」

仕事場に居た父さんが俺に気付いたらしく、心配そうに声を掛けてくる。
俺は一度深呼吸をして、「大丈夫」と返した。

久しぶりに立つ、台所。
久しぶりに作る、食事。
何もかもが“久しぶり”で、懐かしかった。


家の仕事がある程度片付いてから、俺は、少し外を歩いていた。
「無理するなよ」と父さんに言われたけど・・・別に歩くだけなら問題ないし。
・・・家まで帰れるかは保障出来なかったけど。

なにも考えずに、ただ歩いていると、いつの間にか・・・楠が1本立っている公園へと来ていた。
やっぱり―心の隅で考えてるのかな。
総士には許してもらったけど・・・俺自身はまだ許していない。
時々思い出して、夢で見る事がある。
そう言う時は、朝起きてから―必ず泣いてしまう。

そんな事考えてたから、楠の下にあの頃の総士の幻が―
・・・幻?

「・・・もう。遅すぎるよ」

楠の下で少し怒りながら、誰かを待っているあの頃の総士。
俺は慌てて目を擦る。
でも、その総士は―消えなかった。

「今日遊ぼうって約束したのに・・・あっ!」

ただ呆然と立ち尽くしていた俺に気付き、総士は走り寄って来た。

「ね、お兄ちゃん。今、暇?」

くいっと服の袖を引っ張られ、俺は慌てて首を縦に振る。
すると、総士は嬉しそうに俺の手を引っ張って、楠の下まで連れてった。

「あ、僕の名前は皆城総士って言うんだ。お兄ちゃんは?」

総士は微笑みを浮かべながら、俺を真っ直ぐ見詰めて来る。
無意識に左目に目線が行く。
―疵が無かった。

「・・・俺の名前は、一騎。真壁一騎だよ」

・・・信じられない。
そう思いながら、俺は総士に動揺をしていることを悟られないように答えた。

目の前に、あの頃の・・・しかもまだ疵付いて無い総士が居る。
夢でも無さそうだし、幻でも無い。
じゃあ・・・お前は・・・この姿で帰って来たのか?

「・・・僕の友達にもお兄ちゃんと一緒の名前の子がいるんだ」

総士の方は、まだ俺に“名前が一緒の人”と思っているだけで、気づいてないらしい。
俺は・・・しばらく総士と話をする事にした。

「今日・・・遊ぼうって約束したのにぃ・・・」

「一騎の馬鹿」と総士はポツリと呟く。
俺は・・・ただ笑うしかなかった。


総士と話をしている内に、どんどん不安になって来た。
何を話しても、あの頃と同じように返してくれて・・・とても嬉しい。
けど・・・この総士は総士じゃない・・・気がして―。

「・・・総士」

「ん?」と首を傾げる総士を、俺は抱きしめる。
そして―

「・・・あなたは、そこにいますか?」

総士の体が一瞬強張る。
俺は怖くなって、総士の顔を見ることが出来なくなってしまった。

「・・・お兄ちゃん、僕は―ここに居ないよ」

しばらくの間を空けて、総士はゆっくりと言う。

「僕の知ってる人達・・・ここに居ない。だから・・・ここに居ない」

「なんだか・・・迷子みたい」と悲しそうに総士は笑った。

「・・・でもね、お兄ちゃんと話してると―一騎と話しているみたいで楽しかった」

俺は、お前の知っている一騎だ。幼馴染の・・・一騎なんだ。
そう・・・言いたくなった。
でも言ってはいけないような気がして・・・言えなかった。

「付き合ってくれて、ありがとう・・・一騎」

そう言って、総士は笑った。
名前で呼ばれたけど・・・多分分かってないよなと思って、笑う事しか出来ない。

その時、強い風が吹いた。
楠の葉が擦れあって、ざわざわと音を奏でている。

「・・・?」

不思議に思って頭上を見てみると―一人の女の子が楠の枝に座っていた。
その女の子は・・・総士の妹の―

「―乙姫・・・!?」

俺がそう小さく叫ぶと、女の子―乙姫は地面にふわりと降り立つ。

「・・・総士に逢いたい?」

彼女は優しく微笑みながら、俺に問い掛けて来た。
勿論、総士とは逢いたい。そう答えると、彼女は「そっか」と笑って、

「じゃあ、明日・・・学校に来て見て」

学校・・・?なんでだ?
それを訊ねようとした時、彼女の姿は―消えていた。
そして・・・総士の姿も。


気付くと、そこは暗い砂浜だった。
そこを裸足で歩く、総士。
なんでお前が―。


「・・・・・」

そこで目が覚めた。
・・・どうやら眠っていたらしい。
今俺が居る場所は、楠の下じゃなくて・・・自分の部屋だった。

「―起きたか?」

父さんが、起きた俺に気付いたらしく、声を掛けてくる。
体を起こそうとするが、力が入らない。
・・・初めてファフナーに乗った時みたいな症状が出てる。

「お前・・・楠の根元で倒れてたんだぞ。・・・体に負担をかけるな」

「・・・俺・・・倒れてたの?」

「・・・なんだ。覚えてないのか?」

「全然」と俺が答えると「頭でも打ったか?」と馬鹿にするみたいに訊かれた。
・・・馬鹿にされてる前に、自分が“倒れていた”と言うことが信じられなかった。
じゃあ―総士と話したのも、乙姫と話したのも・・・全部、夢?

「今日はもう休んでおけ。後は父さんに任せろ」

なんだよ。飯も炊けないくせに―。
そう反論してやろうかと思ったけど・・・なんだか眠くなって、そのまま寝てしまった。





翌日。
よく考えてみると、今日は卒業生も参加の学校内一斉大掃除の日だった。
・・・内心めんどくさいと思っていたけど、乙姫に言われた事が気になったから・・・学校に行く事にした。

「おはよぉ、一騎くん」

からからと玄関の戸を開けると、いつものように遠見が待っていてくれた。
「おはよう」と俺は返して、階段を登っていく。

「昨日・・・倒れてたんだって?大丈夫なの・・・体」

心配そうに訊ねてくる遠見に、俺は笑って「大丈夫だよ」と答えた。

「・・・笑う事、無理・・・しなくて良いよ」

俺は驚いて遠見を振り返る。
すると遠見は優しく微笑んでくれた。

「今・・・無理に笑ったでしょ」

「・・・そう、見えた?」

「・・・うん」

やっぱり―遠見に隠し事をするなんて・・・出来ない。
だから俺は・・・昨日体験した事を、遠見に全部話した。

「幼い頃の皆城くんの幻と・・・乙姫ちゃんが?」

遠見自身も驚いていたらしく、目を丸くしている。

「でも・・・夢みたいな感じ。―あ、あの楠の下に―」

丁度、楠がある公園の前を通ったから、指差した。
その時―また幻が見えた。
・・・一年前の総士の姿だった。

「・・・・どうしたの?」

中途半端に腕を伸ばして固まっている俺に、遠見が不思議そうに声を掛けて来る。
俺は慌てて腕を引っ込め「なんでもないよ」と言った。

「じゃあ、早く学校行こっ!皆城くんの事で―なにか分かるかも知れないし」

そう言って、遠見は走って行く。
俺はその後をゆっくり歩きながら、追って行った。



「結局なにも分からなかったねー」

放課後になって、やっと掃除が終わる。
どうやら何かトラブルが発生したらしくて、一時中断があったせいで余計に時間が掛かったからだ。
総士の事についても分からずじまいで、俺も遠見も疲れ果てた。

「・・・あ、もしかして、決闘の申し込みみたいに・・・下駄箱に手紙が入ってたりして」

・・・遠見は冗談で言ったみたいだけど・・・本当に手紙が入っていたからビックリした。
かさりと俺の下駄箱から落ちた手紙を拾って、遠見が読む。

「・・・決闘の申し込み。放課後、屋上で待つ。皆城―」

“皆城”と聴く前に、俺はもう廊下を走っていた。
誰かが途中で止めようとしていたけれど、無視をする。
もう・・・無我夢中で屋上に向かっていた。



―屋上。
夕日に染まる―総士の後姿。

「総士・・・!!」

体が必死になって失った酸素を取り戻そうとしているから、声が掠れて上手く出せなかった。
けど、それでも・・・お前は気付いてくれた。

「・・・一騎」

総士が俺の方へ、振り返る。
俺は途端に嬉しくなって・・・泣いた。

「何泣いてるんだ、一騎」

総士は、可笑しそうにクスリと笑う。
俺もつられて・・・笑った。
・・・久しぶりに、本当に笑ったような気がする。
だから―

「・・・おかえり」

心の底から、そう言った。




Fin.........




+後書き+・・・・・・・・・+

・・・このオチは何なんでしょうね;(ぇ
―はい、「蒼穹のファフナー」一周年記念です。
一年後で書きました、「総士帰還」小説。
また違う風味で書きたいな、とか思ってましたけど・・・全然そうは行かなく;
『Shangri-La』を口ずさんでいた時に生まれました。
なので、『Shangri-La』を口ずさみながら想像して頂けると良いな・・・と言う風な感じです。
もっとちゃんと書けば良かった・・・;

ちなみに『光風霽月』は『こうふうせいげつ』と読みます。
意味は「うららかに吹き渡る風と、雨上がりの晴れ渡った空の月」と言う意味。
また、「心が清らかに澄みきっている」時に例える言葉でもあります。
・・・話と接点が無いような・・・;