「現実かどうかも分からないよ」
目の前に広がっている残酷な現実を目の当たりにした、人々が口々に言う言葉。
夢なのか―そう願いたい、夢なら早く覚めて欲しい、と希望を託した意味。
「駄目・・・耐えられない・・・」
ひとりの少女が小走りでその場を去っていく。
この場所から眼を背けても何処も同じで、結局はまたこの場所に戻って来るしか無いと言うのに。
―誰も・・・その少女を引き止めようとはしなかった。
「此処が―東京・・・?」
ただ其処に在ると思っていた日本の首都―東京。
今はまるで荒野の様に、剥き出しになった大地を風に晒している。
少し歩くと、街があったと思われる建物などの残骸が有った。
「本当にあの島だけだったんだ・・・」
誰かが悟った様に呟き、また誰かが息を呑んだ。
「この世界が真実なら・・・僕達の世界は偽物かも知れない」
この世界に否定し、この世界に恐怖する。
それが宇宙からの来訪者―有り得ない物との接触で生まれた、世界そのものなのだ。
そう思わせる様な世界を目にし、その場に居る人々は困惑し、動揺する。
感情の連鎖によって生まれた不安は、やがて―希望となった。
―意思を受け継ぎ、託して行く子供達の手によって。
−Feel one's way−
ふわふわとした心地よい意識の中で、少年は目を覚ます。
ぼやけている視線の端に動いている物体が見えるが、気にせずに天井を見ていた。
「―・・・で・・・あれは・・・なの。そ・・・うん」
途切れ途切れに聴こえる声に聞き覚えがある事に気付き、少年はその声の主を呼ぶ。
暫くして、駆け寄ってくる足音が聴こえた。
「やっと起きたのね、もう・・・二日も眠ってたのよ、あなた」
心底心配そうに呟く少女―生駒祐未。歳に似合わず大人っぽい少女だ。
一方で少年―将陵僚はベットの中で力無く笑った。
「おはよう・・・祐未。今回・・・酷かったみたい」
「見たら分かるわよ」と溜息を吐き、祐未は顔を伏せる。
「あんなに"無理しちゃ駄目"って言ったのに・・・心配させないでよ」
今にも泣きそうな表情をして、祐未は言った。
現に、僚は"無理しちゃ駄目"と言う言葉は存在しない。
自分の身体が身体の為に、周囲から心配されているだけ。
僚自身は、無理しないと何も出来ないから、無理をする。
何も出来ない自分に出来る事の嬉しさを知り、いつか居なくなる自分に恐怖しながら、そう思い続けていた。
「本当にごめん。でも・・・俺、嬉しいんだ」
―自分の居場所を与えてくれた、プロジェクト。
ごく一部の子供たちがそれに参加していると言われている。
「俺にも出来る事・・・見つけたから・・・」
「だからって―何もプロジェクトじゃなくても良いじゃない!」
祐未の瞳から涙が溢れ、頬へと伝った。
「俺・・・皆と一緒に居たい。それに、俺が止めたら・・・次に形成値の高い子が"犠牲"になるんだ」
すっと手を伸ばすと、そこには温かい光が満ちていた―。
そんな気がする、と僚は思いながら、祐未の頬に触れる。
「でも・・・僚、あなた・・・いつも乗った後・・・意識無いでしょう!?」
頬に触れた手に涙が伝った。
「泣かないでよ、祐未。俺なら・・・大丈夫だから」
―信じて欲しい。そう込められた瞳で見つめると、祐未も少し微笑んで見つめ返す。
祐未は静かに頷いた。
「言っても無駄だとは思うけど、無理・・・しないでね」
優しい微笑みで、僚は少し苦笑いで、互いに笑い合う。
―電話のコール音がなるまでは。
「はい、アルヴィス医療区、治療室126号室です―」
急いで部屋に設置された電話に駆け寄り、祐未は受話器を取る。
掛けて来た相手は―少年だった。
『―あ、祐未先輩も居たんですか』
「・・・それ、失礼よ、総士」
受話器から聞こえてくる声の主に、祐未は眉間に皺を寄せる。
総士と呼ばれた少年―皆城総士は、プロジェクトに参加する子供達の一人であり、
竜宮島の代表・皆城公蔵の息子でもあった。
『プロジェクトの連絡網です。先日の東京の件に関しての召集が今夜から。あと―』
少し押し黙ってから、総士は再び言う。
『僕たちパイロットだけ―なんか・・・有るそうです』
きっと、"あれ"についての事だろう―。
祐未はそう思い、溜息を吐いた。
「・・・分かった。僚にも伝えておくわね」
『はい、分かりました。・・・あの、僚先輩の具合、どうですか?』
「珍しいわね、あなたがそんな事訊くなんて」と祐未は思わず声を漏らし、クスリと笑う。
「大丈夫よ?私の言う事に一々反論してくるし。心配して損しちゃった」
本人にも聞こえる様に大袈裟に言うと、僚が苦笑しながら「悪かったなー」と言う声が聞こえた。
『そうですか・・・良かった。では、また今夜』
相手が電話を切るのを確認し、祐未は受話器を置く。
そして、祐未は頭を抱えた。
「僚ー・・・今夜召集有るってさ・・・。それと、極秘会議。ろくに眠れないわね・・・」
「もう直ぐ文化祭だって言うのに、なんでこんな忙しい時期に」と愚痴を零す。
僚はただ静かに微笑んでいた。
二日振りに出る地上。やはり、アルヴィスの中で吸う空気とは違い、清々しい気分になる。
そう思いながら、僚はひとり山の山頂にあるベンチに座っていた。
「あれー?僚先輩、こんな所に一人で大丈夫なんですか?」
「よいしょっと」と崖の方から上がってきた少女―遠見真矢が、僚に声を掛ける。
僚は少し驚きながら微笑んだ。
「真矢こそ、ロープ無しで大丈夫なのか?」
「此処のはまだ序の口ですよぉ・・・それに"なんとなく"分かるんですよね・・・」
この島にはひっきり無しに"天才"が生まれている、と言う話がある。
真矢のように"なんとなく分かる"も、その"天才"の一部だ。
自分も何らかの"天才"では無いのか―と僚は思い、急いで否定した。
もし自分が"天才"であっても、それはただの思い込みなのかもしれない。
祐未のように、何も無いところからどんなに小さくても必ず"幸せ"なんて、見つける事など出来ないから―。
「僚先輩なら大丈夫ですよ!」
僚の考えに気付いたように、真矢は急に声を上げた。
「先輩は、誰にも負けない強い心を持ってます。だから、大丈夫」
妙に真剣な面持ちで話す真矢に、僚はクスリと可笑しそうに笑う。
そして、寂しそうな表情で真矢に礼を言った。
「ありがとう、真矢。なんか・・・スッキリしたよ」
「はい」と嬉しそうに微笑む真矢に、僚はいっそう強く心に誓う。
"この世界を守らないと"―と言う誓いを。
「・・・自分を信じてあげて下さい。そうすれば・・・きっと願いは叶います」
僚との別れ際に、真矢は妙に意味深な言葉を言って僚を見送る。
まるで、これから何が起こるかを予知したかのようだった。
「この前の東京の件、なんか色々とゴタゴタしているみたいだな」
「私も初めて見て、結構ショック受けたから・・・無理も無いわね」
会議室から"パイロットの召集場所"に行く為、僚達は廊下を歩いていた。
「総士は、前にも一度・・・行ってるのよね」
後ろに歩いていた総士に一声掛け、祐未は隣に居る僚と話を始める。
総士は軽く溜息を吐いて、一言言おうとした時―
「"祐未先輩は話し掛けておきながら、話題を反らせ過ぎです"―でしょ?」
隣で歩いていた眼鏡を掛けた少女―蔵前果林に言う事を言われてしまい、総士は少しギョッとした。
「皆城くん、いつもそう言ってるじゃない。言うタイミングもいつも同じ。祐未先輩が話しかけた後」
クスクスと笑われ、総士は再び溜息を零す。
図星を突かれた総士の様子に僚と祐未は意外そうに後方へ振り返った。
「総士が女の子に押されてるわ・・・」
「うわ・・・性格からして意外だな・・・」
「・・・2人とも、もうそれから離れて下さい」
恥ずかしげに呟いた総士が可笑しく、僚と祐未は笑を堪えながら前を向く。
いつもと違う意外な一面を見せた総士に、改めて僚は昔と同じ面影を感じた。
「―っと。此処よね、召集場所」
一つの大きな扉に"格納庫"と書かれている。
その扉の前に来た僚達は、扉の横にあるパネルに自身たちのIDを入力し扉を開ける。
「日野さん・・・呼ばれたのって、俺たちだけなんですか?」
ファフナー・パイロット候補生の教育を担当している女性に、僚は声を掛ける。
「そうよ。とりあえず・・・此処に来てちょうだい」
そう言って、女性は自身の目の前へ来るように言った。
「君たちに改めて尋ねておきたい事があるの」
女性は後方に置かれている機体―ファフナー・プロトタイプに指を指す。
僚と祐未はその質問の意図に気付き、拳を握り締めた。
「私たちは、考えを改める気はありません。何と言われても、アレに乗ります」
「俺たちが乗って、皆を・・・この島を守らないといけないんです」
神剣に話す僚と祐未に、女性はふっと息を零し苦笑いを浮かべる。
僚は思わず「え?」と訊き返してしまった。
「君たちの決意がどんなものか・・・図らしてもらっただけなの。ごめんなさいね」
そう言って女性は「召集命令はそれだけよ」と言って、格納庫から出て行く。
僚は拍子抜けしたように、その場にへたり込んだ。
「総士ーお前知ってただろ・・・この召集の意図」
「・・・言わないように、と言われたんで、言いませんでした」
「正直で良いよね・・・」と祐未も息を吐き、深呼吸をする。
そんな三人の会話に、果林はクスリと笑った。
「仲良しですね、三人とも」
果林の言った事に僚と祐未は苦笑いを浮かべ、総士は少し眉間に皺を寄せる。
その後四人は格納庫を後にし、自分達の家に帰って行った。
「・・・先輩たちの決意は、私たちより・・・遥かに強いものだったんだね」
家までの帰り道を歩きながら、果林はどこか寂しげに呟く。
「先輩たちが居るからこそ、今の竜宮島があるんだと・・・思いたくなくても、思ってしまうな」
総士は、雲ひとつ無い夜空を見ながら隣に居る果林に言った。
「私・・・この島を守るために生まれて来たのに、先輩たちに任せちゃうなんて・・・情けないよね・・・」
「そんな事、ないよ。蔵前はちゃんと強い意志を持ってるし・・・この島の為に死ねるなんて・・・僕は言えない」
「それを言える蔵前が羨ましいよ」と総士は悲しげに呟き、立ち止まっている果林に気付き振り返る。
驚いた表情をしている果林に、総士は微笑みかけた。
「蔵前は蔵前だ。蔵前の生き方にどうこう言う奴なんて、居ないさ」
そう言って、総士は再び歩き出す。
「ありがとう・・・皆城くん。君も・・・変わっちゃったね」
総士に聴こえない様に静かに呟いた果林は、ゆっくりと歩き始めた。
青く晴れ渡る空が広がり、穢れなく澄んだ風が吹いている。
風に栗色の髪をなびかせながら、総士は息を吸った。
「―本物と、変わらない」
ぽつりと言ったその言葉は、風に乗って後ろに居た僚や祐未、果林に翔子、衛や道生―。
フェストゥムに生きると言う場所を奪われた人々の耳に届いた。
「・・・行っておいでよ、総士」
「大丈夫。きっと願いは叶うよ」
励ましの声援を受け、総士は思わず泣きそうになる。
「一騎くんと会って、ちゃんとお話して・・・私たちの分まで、いっぱい・・・いっぱい生きて、思いで作ってね」
翔子が言った事に力強く頷き、総士は皆の思いで作られている"空想の楽園!"から出るために、
総士は一歩ずつ足を進めた。
「頑張って、皆城くん!皆・・・皆、君がちゃんと"帰れる"事を祈ってるから!」
瞳から零れそうな涙を堪えて、総士は果林を始めとする人々の思いを受け止め、待っていた甲洋に手を伸ばす。
そして、差し伸べられた甲洋の手を掴み、総士は目を閉じた。
「総士、俺はお前を一騎の所へ連れて行くだけだけど、思いは―此処に居る皆と変わらない」
「応援してるからな」と甲洋は言って、目を閉じる。
その瞬間、2人は光の粒子と砕け、風に乗って大空へ舞った。
「俺たちの夢の続きは・・・今度は総士が見る番かな」
「そうじゃない?だって・・・私たちは、ひとつの目標を成し遂げたんだから・・・」
互いの手を握り締め、祐未は隣に居る僚に寄り添う。
「此処に居る私たちも・・・いつか総士みたいに、竜宮島に帰れる日が来るのかな・・・」
目を閉じて呟く祐未に、僚は微笑んで答えた。
「その日が来ても、俺は祐未と過ごした日々を忘れないよ。ずっと覚えてるから」
再び風が吹く。
この楽園から竜宮島に帰る人を選ぶかのように、ゆっくりと人々の間をすり抜けた。
「私・・・今まで言えなかった事があるんだ・・・」
「うん?」と祐未を見つめる僚に頬を赤く染め、祐未は呟く。
「今までずっと一緒に・・・傍に居てくれて、ありがとう」
その言葉を聴いて、僚は微笑んだ。
「なんだよ、改まって。それに、今までじゃない。これからも・・・ずっと一緒だ。俺はずっと祐未の傍に居る」
「ありがと・・・とっても嬉しい」
お互いに微笑みあう僚と祐未の姿を見つめながら、果林はゆっくりと息を吐く。
次々に吹いてくる風を受け、総士が竜宮島に帰れる事を心に祈った。
Fin......
+後書+--------------------------+
「DEAD SET」と「Peace of mind」をイメージしながら書いてみました。
最後の方は「明日への扉」に入る前な感じで・・・お願いします;(ぇ
実際、これを書いていたときは左右の放送前だったんで、かなーり内容が違うのですが・・・;
そこはあえて訂正せず、そのままの形で続きを書いてみたり。
・・・意外と短いかな;
当初とは全然違う内容になったんで、内心すごい焦っていたのですが、上手くまとめられて良かったです。
ちなみに。
この小説のタイトルである『Feel one’s way』と言うのは、『手探りで進む』と言う意味だったり。
電子辞書で見つけた英語だし(ぇ
あー・・・なんか意味と全然合ってませんね;
もうちょっと考えなきゃなー・・・;
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
そして、お疲れ様でした。
いつもと同じ事で締め切らせて頂きますが・・・。
これは『明日への扉』の"別の物語"として読んで頂ければ幸いです。