―暗い海。飲み込まれそうなぐらいの深い静寂。
小波に乗って運ばれていく・・・儚い灯火。
その灯火は、小さな方舟に乗っている。
この方舟は、皆の想い。
この灯火は、儚い命。
『総士、早く来いよー!』
『ちょっとぐらい待ってよぉ』
あの日、僕たちは海へ出かけた。
僕を含む4人の子供達―僚先輩、祐未先輩、そして・・・一騎と。
『僚ー、あんまり急ぐと転ぶわよー!』
『分かってるって、祐―っうわぁ!!』
派手に転んだ僚先輩に苦笑する祐未先輩。
慌てて駆け戻る一騎のあとに続き、僕も僚先輩の元に駆け寄った。
『僚、大丈夫?』
心配そうに声を掛ける一騎の姿が―何処と無く母親のような雰囲気をしている。
それに答えるように平然と立ち上がった僚は、苦笑を浮かべた。
『ごめんごめん・・・大丈夫、どこも怪我してないから』
『てへへ』と笑った僚先輩の手を、祐未先輩が掴んで引っ張っていく。
『あんたのせいで遊ぶ時間が少し減ったじゃない!―ほら、さっさと行くわよ!』
僕と一騎はその光景がおかしくて、笑いながら先輩達の背中を見ていた。
『・・・じゃあ、俺達も行こうか、総士!』
名前を呼ばれ、腕を引っ張られる。
笑顔を浮かべている一騎の表情を少し見つめて、僕も頷いた。
燈火の灯−想い出は、燈籠に灯す火のように−
今年は・・・この夏祭が来るのが、すこし嫌だった。
毎年―亡くなった人々への追悼として・・・燈籠流しを行っているからだ。
「・・・お前も、気が進まないのか?」
燈籠制作をしている部屋の中で居づらくなり、隣で作業をする手が止まっていた一騎に声を掛ける。
一騎は力無く微笑んで、作りかけの燈籠の木枠を床に置いた。
「そう・・・なんだ。でも、作らないと・・・居なくなった人たちの存在を、否定する事になるんだよな」
「・・・そうだな」
居なくなった人たち。フェストゥムに・・・"存在する場所"を、奪われた人たち。
「でもさ・・・皆、何処かで生きていると思うんだ」
「だから、この燈籠が・・・この島に"帰って来れる灯火"になって欲しいな・・・」と一騎は言った。
燈籠流しは―ただ追悼のためだけに流してるのでは無い。
その考えは、僕自身も初めて考える事だった。
「・・・そう言えば、総士が作ってる燈籠って・・・誰の燈籠・・・なんだ?」
言い難そうに訊いて来た一騎に、僕はふっと笑う。
僕の手元には、すでに完成した燈籠が2つ有り・・・今は3つ目を作っている所だ。
「・・・燈籠流しが終わってから、でも良いか?」
溢れて来た悲しみに表情が歪まないように、一騎に悟られまいと笑いながら答えたけど―。
一騎の表情が一瞬曇ったから・・・ばれたのかも。
「分かった。あとで・・・言ってね」
ぽつりと返された言葉が、少しだけ・・・悲しさを含んでいた。
僕たちは・・・毎日のように死と向かい合わせになっている。
先が見えないフェストゥムとの戦闘・・・同化現象の兆し。
あの時―先輩たちも、苦しんでいたのかな。
燈籠に、居なくなった人たちへの願いを込めて、名前を入れる。
筆が震えて・・・書けないんじゃないかなって思ってしまったけど・・・。
その時、先輩たちの笑顔が心に浮かんだ。
『大丈夫だよ。絶対帰ってくるから』
その言葉は、海の中で途絶えた。
『だから、絶対に迎えに来てよ』
笑顔だけが・・・心に響いていく。
『その時まで・・・お前たちがこの島を守るんだ』
僕たちは―約束を守れましたか?
『俺達の居場所は―この島だけだからさ』
暗い海。ゆらゆらと揺れる小さな灯火。
小波に流されて、遠くへ・・・遠くへ運ばれて行く。
「燈籠・・・綺麗だな」
隣で一緒に眺めていた一騎が、ぽつりと呟いた。
皆の元に届くと良いな―と思いながら、僕はひとつ、深呼吸をする。
「先輩たちの事―お前は・・・覚えているか?」
そう訊ねて、一騎の横顔を見つめる。
燈籠を見つめていた眼差しが、微かに懐かしげな眼差しに変わった。
「覚えてるよ。あの時は・・・先輩の言っていることがよく分からなかったけど、今なら分かる気がする」
あの頃の僕たちは・・・ギクシャクしていた。
確かに、昔の僕たちを知っている先輩たちや友人たちから見ると・・・疑問に思われているかも知れない。
この疵と・・・島のことについてで・・・頭、回らなかった時だったから。
「俺・・・僚先輩に言われたんだ。"自分から行動しないと、何も変わらない"って」
「僚先輩って、友達との仲を大切にする人だったから」と一騎は微笑んだ。
そういえば・・・そうだった。そんな気がする。
「だから、俺・・・あの時、島を出て―総士?」
「―?」
不意に名前を呼ばれ、不思議そうに僕は一騎を見つめた。
一騎は妙に驚いた顔をしながら・・・ふと、僕の頬に手を伸ばし、触れる。
「・・・泣いてるの、か?」
泣いている・・・?僕が?
そう思って僕も頬に触れてみると―微かに指先が涙で濡れた。
「あ・・・」
―やばい、と思う。
このまま涙を流せば・・・本格的に泣いてしまう。
「総士・・・」
そう思った瞬間―一騎が僕を抱き締めた。
頭に回された腕の温かさが、心地よい安堵感を生んでくれる。
「大丈夫・・・大丈夫だから」
そう呟かれた言葉に、涙が溢れ、次々と頬を伝った。
「先輩たちの事・・・父さんに聴いたんだ。この島を守るために・・・卒業したんだって」
今まで我慢していた感情が、波になって一気に押し寄せてくる。
何があっても泣いては駄目だと・・・決めていたのに。
「それを知っているのは・・・島の大人たちとお前だけだって事も、聴いた」
「・・・っ」
嗚咽が漏れる。
その度に一騎の力が増していくような気がした。
「色々嫌な思いさせて・・・ごめんな、総士」
その瞬間―僕は声を上げて泣いていた。
僕が泣いている間・・・ずっと一騎は背中を撫でていてくれた。
「お前はちゃんと島を守ることが出来ているよ」
何処かで、先輩たちがそう言ってくれている。
・・・そんな気がした。
「ありがとう、一騎」
しばらくして、鼻を啜りながら総士は言う。
不安げに見つめてくる一騎に微笑み、もう遠くに見える燈篭に視線を移した。
「先輩たちの事・・・聴いてるなんて、全然知らなかった」
ぽつりと呟いた総士の言葉に、一騎は「うん・・・」と言って総士とは反対方向に視線を移す。
「僚先輩の・・・声も聴いたよ。俺・・・そんな事が有ったなんて、本当に、知らなくて・・・」
「知らなくて、当たり前なんだ・・・。でも、それよりも、先輩たちが居た事―覚えていて欲しい」
何処か吹っ切るように言った総士に、一騎はこくりと頷いた。
「・・・一騎」
総士に呼ばれ、一騎が振り向くと―花火セットを持っている真矢と剣司。
それに、衛と咲良にカノンが、砂浜に集まっていた。
「驚かしてごめんね、一騎くん。やっぱり夏祭りと言えば、毎年恒例の皆でやる花火なのよ」
少し遅れてやって来た弓子と道生が、引率者らしい。
うんうん、と頷いている剣司と衛が、持っているバケツに海水を入れた。
「一緒にやろう?一騎くん」
真矢がニコリと微笑んで、一騎に花火セットから取り出した花火をひとつ、手渡す。
「俺打ち上げ花火やりたいー。・・・そう言えば、カノンって花火、知ってるのか?」
「私は・・・生まれた所に、花火なんて物、無かったから」
「でも、ちょっとだけやった事あるよな」
「ふふっ・・・道生って、花火職人を目指すって言ったぐらい、花火好きなんだよね」
「そんな昔の話するなよー」
皆の笑い声が夜の砂浜に響き渡る。
そんな中で、総士だけが寂しそうな笑顔を浮かべていた。
「夢花火・・・か・・・」
花火セットの中に入っていた線香花火のパッケージを見て、総士は呟く。
―夢が叶う、花火。
「みんなー!!全部の花火が終わったら―」
―この花火をしようよ―。
燈篭の灯りが海に浮かぶ。
砂浜には、子供たちの楽しげな笑い声と、花火の灯り。
先輩。
僕らはいつまでも・・・此処に―この島を守って行きます。
だから・・・この灯りを目印にして―帰って来て下さい。
いつまでも、待っていますから・・・―
Fin.....
+後書+------------+
お盆用の小説第一弾。
実はまだ第二弾が有るのですが、出来なかったら来年に回します(ぇ
今回は・・・総士を泣かせてみようと思って書いてました(何
まだ一度も泣かせた事無かったんで、思い切って(笑(ぇ
お盆と言えば・・・ご先祖様が帰ってくる大切な日。
自分が何を書こうと思っていたのか・・・それがあまり表現出来ていない様な気がする;
やはり・・・文章での表現は難しいものです。
ここまで読んで下さった方、お疲れ様でした。
背景は黒ですが・・・偶には黒も良いですよね(笑(ぇ